治療方針

健康な「関節作り」の重要性

人のからだはもともと動くようにできています。からだの動くところには関節があります。動いているときは、いつも関節が使われています。大から中の関節は首、肩、肘、手、背中、腰、股・膝、足など68個の関節があり。小関節は数えきれないぐらいあります。人によって少し違いますが、全部で約260個あります。この多くの関節により、体のスミズミまで動くようにできています。それがスムーズに動くことが重要です。関節の動きが悪くなると、体は人にサインを出します。このサインにいち早く気づくように、サインは関節の痛みや動きの制限として出します。時には、サインは激痛であったり極端な運動制限だったりします(このサインが、かゆいとかくすぐったいとかですと有難いのですが)。

人の関節は、電車にたとえると、車両と車両をつなぐ連結部にあたります。あなたも電車の連結部にたまたま乗ったことがあると思います。この連結部は、電車を引いたり、押したり、カーブを曲がるときに働きます。この時のガタコトする振動で、体が大きく揺れ、回りのものに思わずつかまってしまいます。(ここで立ち止まると車掌さんに注意されます)。この列車のガタコト振動と同じようなことが、私たちの関節に一日中おきています。もし、列車の連結部のガタコト振動がそのまま私たちの関節におきていたら、途端に関節はこわれてしまいます。そうならずに、長い間、うまく動いてもらわなくてはなりません。人によっては百年間もうまく動いてもらわなくてはなりません。このガタコトを少なくするように、私たちの関節は作られています。

たとえば、関節の骨と骨のかみ合わせを良くし、その表面はすべりのいい軟骨を使い、関節が滑らかに動くようにし、靭帯や関節包(関節の袋)もガタコトを減らすように工夫されています。もちろん、これらを動かす筋肉も重要な役割をしています。しかし、関節は、歩いたり、走ったり、止まったり、ひねったりと一日中動いています。そのため、どんなに工夫して作られていても、いずれ、年月とともにガタピシとなってきます。これは連結器や関節の運命みたいなものです。しかし、この運命に、私たちの関節をゆだねるわけにはいきません。長い使用期間中、関節が良好な動きを続けるために、私たちはいろいろな工夫と努力が必要になります。

それには、まず、関節の特徴を知る必要があります。専門的な言葉を使いますが、軟骨や骨を細胞レベルで考える細胞生物学や、関節を動かす生体力学的な観点から、関節の衰え予防や改善治療が必要です。そのために、当院の関節に対する治療は、関節軟骨の保護や修復、関節のすべり(うごき)の改善、関節を動かす靭帯の柔軟性の向上、筋肉の働きをますことを目標に行っています。こうして、少しでも長い間、健康な関節を保つように、皆様のお手伝いができたらと思っています。
次いで、膝・肩・腰・頸の疾患でその関節に注目した治療を紹介します。

膝関節の治療

日本人の多くは、膝関節の内側に変化(変性)が年齢とともにおきてきます。最近は、軟骨の一種で関節のクッションの役割をする内側半月板も注目されています。特に膝関節の内側後方部は、関節軟骨のすり減りが激しく、半月板の亀裂がおきてきます。このため膝関節は充分反らなくなり、O脚変形が進みます。こうして、関節をスムーズに動かすことができなくなり、屈伸時や階段昇降時に痛みが出ます。この原因はいろいろありますが、日常生活の動きで、関節の内側後方部に負担が集中し、ここの軟骨変性が進むからです。その負担の集中を軽減することが、膝関節の変性を遅らせ予防することになります。

治療は、変性が早期のうちに始めることが重要です。治療開始を判断するには、膝レントゲン所見の丁寧な把握と生体力学的な考察が必要です。この観点から、当院の治療内容は、①関節のなめらかな動きを回復させるために、体重をかけないで関節を動かすエルゴメーター(自転車)の空漕ぎ。②関節の伸展(反り)障害や拘縮を軽くするためにスッタフと伴に行う当院独自の膝関節徒手療法。③膝関節周辺の筋力増加運動です。これらの療法は、温熱療法、物理療法(干渉波・マイクロ波)で関節痛を軽減する前処置を行ってから実施します。ヒアルロン酸の関節内注射も必要に応じて行っています。

治療に重要なことは、自分で膝関節の変性に早めに気づくことです。このための、簡単な自己チェック法があります。膝関節の反り具合を反対の痛くない(痛みが少ない)膝と比べることです。一般に、悪くない膝の関節はよく反り過伸展します。多くの場合、より痛いほうの膝関節は、十分反らなくなっています。これは関節変性の、ごく初期にもおこってきます。以前、当院の調査で、初期の変形性膝関節症に限ると、リハビリスタッフによる膝関節を過伸展訓練することで、約80%の患者さんにひざ痛の軽減がみられました。

また、足の形に注目することも重要です。見た目は扁平足でなくても、立って体重を足にかけたときに、土ふまずのなくなる荷重時の扁平足(足の縦アーチの消失といいます)を見つけることも重要です。これは中年以降の女性によくみられ、足の縦アーチを保持するのに必要な後脛骨筋腱の機能不全でおきてきます。この時、外反母趾を伴うことが多くなります。また、扁平足は、脛骨(すねの骨)を介して生体力学的に膝関節に悪影響を及ぼします。これは、主に大腿‐膝蓋骨関節(おさら)を悪くします。こうなると、階段を降りるときに痛みが増すことがあります。足から膝への影響を少なくするため、足底板(靴インナー)を作ることもあります。当院の調査では、足底板の装着で、膝の痛みが半減した患者さんがありました。

その他、膝関節の病気は、スポーツ障害による前・後十字靭帯損傷、半月板損傷・運動のオーバーユース症候群などたくさんあります。それぞれの膝関節の病態に合わせたリハビリや装具療法を行っています。また、それぞれの専門医が活躍する連携病院に紹介もさせていただいています。

肩関節(五十肩、凍結肩)の治療

肩関節は全身の関節の中で最も動きが大きい関節です。この柔軟性が肩関節の特徴です。このために、肩関節が外れた話をよく聞きます。この関節は、柔軟性と堅固な関節包 が必要になります(柔らかくて堅いとはおかしな話ですが ?!)。肩関節はこの矛盾した性質を持つために、関節包の一部分が堅固な靭帯様組織になっています(関節前面に3本の関節包靭帯があります)。この肩関節の性質が、年齢とともに弱点となってきます。40歳ぐらいになると、柔らかい関節包が少し硬くなってきます。すると、腕を充分あげられなくなり痛みが出ます、夜間も痛みがおきてきます。これが五十肩とよく言われる状態です。まだ柔らかい関節包の硬化は、適度な運動によりまた柔らかくなりなります。

しかし、ここに五十肩の落とし穴があります。この時に、関節包靭帯も固くなることが意外に多いのです!関節包靭帯も固くなると、五十肩のような経過はたどりません。関節包全体がどんどん固くなり、関節の動きが極端に制限されます。続いて、肩甲骨と肩関節(上腕骨の肩関節近く)の間にある肩甲上腕筋も固くなります。ここまで硬くなると、肩関節は水平までも上がらなくなり、夜間痛が激しくて眠れなくなり睡眠障害が生じてきます。ここまで硬くなると,五十肩のようには治ってはいきません。このように、肩関節の周囲を含んで極端に固くなった状態を凍結肩といいます。凍結肩の70%は女性に発症すると言われています。一旦、凍結肩になると簡単にはもとに戻りません。関節の拘縮をとる集中的なリハビリが必要になります。痛みを和らげる温熱療法や物理療法に加えて、スタッフによる徒手矯正療法を中心に積極的な他動運動が必要になります。この治療は健康な肩関節を回復するために、当院で考案した方法で行っています。リハビリを開始した人の多くは、肩関節の夜間痛が、治療回数の2回目から6回目(平均3.3回)で、初診時より半減しています。

その他に、よくある肩関節の病気には、激痛で一睡もできなくなる肩関節石灰化症があります。石灰化部位への注射療法と服薬療法で対処します。また、肩が突然上がらなくなる腱板断裂・上げた肩関節を下す時に痛みが出るひっかかり肩(インピンヂメントショルダー)・動きが悪くなり痛みを伴う変形性肩関節症などがあります。これらは、関節の動きをスムーズにするリハビリが主体の治療を行っています。治療の経過によっては連携病院の専門医に紹介させていただきます。

急性腰痛症 (ぎっくり腰)の治療

ちょっとしたきっかけで、じっとしていられないようなひどい腰痛がおきることを、通称、ぎっくり腰といい、急性腰痛症とも言います。この腰痛は、年に何回も繰り返し、はっきりした原因がないとよくいわれます。しかし、詳細なレントゲン所見の分析や注意深い症状の検討で、多くの急性腰痛症の原因が推定できます。また、必要に応じてMRI検査も連携病院にて実施しています。

腰部脊椎(腰骨)は、椎体骨と椎体骨間にあるクッションの椎間板や椎体骨間の椎間関節(仙腸関節)や下肢へ向かう神経で主に構成されています。この構成部分の炎症や椎間関節の動きの障害が腰痛の原因になることもあります。しかし、これらの構成部分の炎症や痛みはその場所に痛みとして現れません。その代り、腰からお尻の痛み・太ももや足の痛み・股関節周辺の痛みとして現れます。また、実際の痛みは、この構成部分が重複して原因となることがあります。この場合の腰痛治療は、この構成部分のそれぞれにアプローチを必要とします。

例えば、関節の動きの障害からの痛みは、その動きを良くする当院の徒手療法に加え、関節の動きを安定化する90‐90度牽引(腰部の牽引)・温熱療法や物理療法に加え運動療法を行います。椎間板や神経からの痛みには服薬もしていただきます。最近は神経の痛みに対する非常に良いお薬が開発され、その効果は実証されています。椎間関節・神経・椎間板が複合原因で起きてくる急性腰痛に対して、徒手療法・理学療法・運動療法や服薬による多面的な治療で臨んでいます。

当院の調査で、急性腰痛で来院した207人の、腰痛軽快が見られるまでの通院回数を調査したことがあります。治療回数は1回の人が105人(調査なし)、2回以上の人は予後調査が可能で、2回が39人、3回が16人でした。4回から14回が39人でした。治療回数2回以上の人で2週間以内に腰痛が改善した人は102人で53.9%でした。また、この治療法は、繰り返す腰痛の再発予防治療としての効果を発揮します。言い換えると、腰痛に対して自分の腰を鍛えることになります。

その他に腰痛をきたす疾患は、腰椎椎間板ヘルニア・変形性腰椎症・脊椎管狭窄症・筋膜性腰痛・腰椎の骨粗鬆症・椎間板炎など多くあります。これらも、腰痛の原因を究明しその治療を進めています。また治療上必要に応じて専門医のいる連携病院へ紹介いたします。

首の寝違い・肩こり・頸椎捻挫の治療

首周辺におきる症状は、目が覚めたら首が痛くて回らない。パソコンに向かうと肩がこる。交通事故で追突されて首が痛むなどがあります。大人の頭の重さは4~6kgあります。首を曲げるときにはその数倍の重さの負担になります。主にこの負担を支えるのが頸椎で、ここに痛みや炎症が生じてきます。

頸椎の痛みや炎症は、首周辺の筋肉のこりや皮膚表面の痛みとして現れます。したがって、首の寝違い・肩こり・頸椎捻挫の痛みを改善するには、頸椎の椎間関節の動きや椎間板の変性に注目することが必要です。

当院の治療は、頸椎のレントゲン写真の生体力学的な把握で、椎間関節の動きを予想し、それをピンポイントに改善する徒手療法を行っています。リハビリは、頸椎牽引療法や物理療法(SSP療法や干渉波や温熱療法)で 首の筋緊張をとり、その後に徒手療法や運動療法で椎間関節の動きを改善しています。椎間板の炎症や腕の神経痛には服薬を併用しながら治療を進めます。その他に頸椎は、頸椎椎間板ヘルニア・頚椎骨軟骨症・変形性頸椎症・頚髄症など多くの疾患があります。必要に応じて、MRIの検査や手術的な治療は、専門医のいる連携病院へ紹介します。

全身にある関節が原因の一端である疾患に注目した治療法は、予防医学の点から見ても効果が期待できると思います。

足の役割と形態

足の役割は、歩行時に地面から最初に力を受け、それを下肢(膝から股関節)まで伝えることです。足の形態の変化はこの地面からの力を弱めたり強めたりします。歩いたり走ったりする時に、膝から足の指(足趾)までに、痛みが出現する疾患があります。これは、足の形や体重をかけた時の足の変形、特に扁平化に影響を受けていることがあります。その疾患は、変形性膝関節症、膝蓋大腿関節症(膝の皿が悪くなる)、オスグット病、腸脛靭帯炎、シンスプリント、腓骨筋腱炎、外脛骨種など多彩です。一見、足に関係がないような疾患でも、足の形態に大きく影響を受けていることがあります。これらの治療は、個人の足の形にあった足底板をまず作成し、その疾患に適した治療を始めます。

装具療法

装具は生体力学・解剖学的な視点を重視してデザインしています。

CM関節症の治療

親指の付け根が痛くなる母指CM関節症は、CM関節の負担を減らし関節の保護、修復を目標とした装具(バンド)を考案しています。日常でできるだけ長く装具をつけていただいて経過を見ます。

ケルバン氏腱鞘炎の治療

第一子の子育て中のママによく起きてきます。赤ちゃんの頭を手で支える時に、母指の付け根から手首にかけて痛みが出ます。母指を伸ばす腱の腱鞘炎です。これにも装具療法(バンド)を行っています。

外反母趾・扁平足・足底腱膜炎の治療

外反母趾・扁平足・足底腱膜炎には足底板の作成をします。この足底板(インナー)のデザインは、足の縦と横アーチを連続的に補いながら、同時に踵を外側から支えるようなヒールパッドつけたものです。
その他に、脚長差の補正や膝関節や足関節の変形に対しても装具療法を積極的に行っています。

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